学習の到達度に対するカトリック系学校の効果

 『孤独なボウリング』の注にあったので、下記の論文を読んでみた。

Morgan, Stephen L. and Aage B. Sørensen, 1999, 
"Parental Networks, Social Closure, and Mathematics Learning: 
A Test of Coleman's Social Capital Explanation of School Effects,"
American Sociological Review, 64(5): 661-681.

 公立高校と比べたとき、カトリック系私立高校において、しばしば生徒の良好なパフォーマンスが観測される。これに対してColemanは、カトリック系の学校では、学校のあるコミュニティにおいて親同士が親密な関係を築き上げており、このことが生徒の学力形成を助けるものになっていると論じる。

 以上のようなColemanの主張は、明示的なメカニズム(を想定したデータ)によって裏付けられているわけではないという。調査データを使ってColemanの理論をテストしようというのがMorgan and Sørensen(1999)の目的である。具体的な問いは次のようになる。

  • 社会的結束性といった形の社会関係資本は、生徒の数学テストの得点と結びついているのか?
  • 社会的結束性は、テスト得点に対するカトリック系学校の効果を説明しうる要因か?

 このような分析をおこなうために、社会関係資本を以下のように操作化している。

同じ学校に通う友人の数
もっとも仲のよい友人5人のうち、何人が同じ学校に通っているか(学校ごとに平均を算出し、学校レベルの変数にする。以下の指標も同様)
親同士の関係
子どもの友人の親を何人、個人的に知っているか
社会的結束性
上記2項目を掛け合わせ、平方根をとったもの
学校への意見
学校の制度に対して親がどれだけ意見することができるか
協働
学校の制度をサポートするために親がどれだけ協働することができるか

 モデルでは、家族構成や人種、親の学歴といった基本的な属性が統制される。従属変数は高校就学期間における学力の向上度(第12学年の数学得点−第10学年の数学得点)である。

 結果を見ると、社会的結束性によって生徒の学力が向上することはない。学校への意見と協働も、同時にモデルに投入した場合、統計的に有意な効果をもたない。これらの要因によって説明されるカトリック系高校の効果はわずか8%ほどで、Colemanの理論を支持する結果にはならない。社会的結束性をもとの2つの要素(同じ学校に通う友人の数と親同士の関係)に分解してモデルに投入すると、生徒同士のネットワークは学力を向上させる効果をもつが、親同士のネットワークは逆に生徒の学力を低下させる。この関係はとりわけ公立校において顕著である(ただし交互作用効果は有意ではない)。公立高校では親同士の「閉じた」ネットワークよりも、学校コミュニティの外部にまで「広がった」ネットワークのほうが、生徒の学力向上にとって有益であることが示唆される。


 社会関係資本の効果を測定しようとする試みでは、相反する結果が提示されることも珍しくない。それぞれの研究において「社会関係資本」だと見なされている概念や、尺度化の仕方が違うために、このような混乱が起こることになる。Morgan and Sørensenの研究ではColemanの理論を否定する結果がえられているが、学校コミュニティの測り方を変えれば、これとは違う結果になるかもしれない。